2015/03/24

なぜ中小企業における不正送金被害が続出しているのか 第5回「中小企業から見たUTMの利点」

自社を守るためにできることを考えましょう

自社を守るためにできることを考えましょう

中小企業が不正送金などのインターネットを経由した脅威から安全に情報資産やお金を守るためのセキュリティ対策の続きです。前回の記事では、「1.知る」、 「2.最新化」 について説明しました。

なぜ中小企業における不正送金被害が続出しているのか 第4回「被害補償対象の条件とは」

今回は3つ目の「持ち込ませない」について説明します。

●3.持ち込ませない

私が最も重要だと感じていることは、「そもそもこういった所に行かない、詐欺メールを入れない、入ったとしても誘導されない仕組み」を導入することです。

情報システム管理者が不在であり、かつセキュリティ対策に大企業のような高額な設備投資ができない中小企業では、社内のコンピュータをインターネットの脅威から自動的に守る仕組みが必須だと考えています。そのために有効な手段のひとつは「UTM」を導入することです。UTMとは「統合脅威管理(Unified Threat Management )」の略で、インターネットと社内ネットワークの間に置くセキュリティ機器です。ほとんどの中小企業では、インターネットと社内ネットワークの出入り口は一本の回線のみで繋がれています。世界中に広がるインターネットへの出入り口に、セキュリティ機器であるUTMを設置するのです。UTMは、以下のようなことをほとんど自動的に解決してくれます。

1)詐欺メール(フィッシングメール)やスパムメールからPCを守る

先日、ある中小企業の経営者が「朝出社して、一番はじめに取り組む仕事は、怪しいメールや邪魔なメールを30分かけて削除することなんです」と話していました。社員も同様に、怪しいメールを手作業で削除することが日課になっているようです。20名程度の会社でしたが、例えば1日あたり30分×20名とした場合、合計で600分(10時間)もの時間を無駄にしているのです。この企業ではUTMを導入したことで、怪しいメールを削除する業務がなくなり、効率化が図れて喜んでいました。また、銀行を騙った詐欺メール(フィィッシングメール)が自分のメールフォルダに届いてしまい、その中に明記されているURLをクリックしてしまった結果、知らない間に詐欺サイト(フィッシングサイト)に誘導され、インターネットバンキングの不正送金被害など金銭的な被害を受けるケースも出てきています。UTMの機能を活用することでこのような危険性の高いメールを社内に入れない、もしくは「タグ」をつけて自動で「怪しいメールフォルダ」に振り分けることで、危険なサイトに誘導されてしまうような被害を未然に防ぐことができるようになります。

2)ウィルスの侵入と拡散を防ぐ

コンピュータウィルスの外部からの進入経路は、「ホームページ」「SNS」「不正動画サイト」「メール」等が考えられます。内部からの進入経路としては「USBメモリ」「持ち運びができるハードディスク」経由で入ってくることがほとんどです。UTMを導入することで、インターネットの出入り口でウィルスが侵入してくるのを未然に防ぐことができるようになります。

昨年、私が中小企業の経営者から相談を受けたケースとして、「知らないうちにウィルスメールをばら撒いてしまい、「今度ウィルスメールを送ってきたら取引停止にする」と取引先から注意を受けてしまったのですが、どうしたらよいのでしょうか?」ということが複数件ありました。セキュリティ問題が経営リスクになっている典型的な例です。

このような問題も、UTMを利用してインターネットの出口でウィルス監視を行うことで「ウィルス拡散による経営リスク」を減らすことができるようになります。話は少し変わりますが、最近では、スマホを会社に持ち込み、USBケーブルでパソコンと接続し「充電」するようなケースも見受けられます。スマホがウィルス感染している場合もありますので、「社内のパソコンには接続しない」「物理的に接続できないようにする」等の対策も必要になります。

3)危険なサイトを経由して起こるセキュリティ被害を防ぐ

UTMは危険性が高いと考えられるサイトをカテゴリ分類しており、サイトにアクセスさせないようにする仕組みがあります。パソコンにインストールされているウィルス対策ソフトでもこのような仕組みがありますが、パソコンにある程度精通している場合、簡単に設定解除することができます。「いくら設定を変えても、社員が勝手に設定を変えてしまうから困るんです」と嘆いていた経営者もいました。このような状況を回避するに、インターネットの入り口の部分(根元)で止めてしまうのも手段のひとつです。

4)インターネットを経由した攻撃も防いでくれる

いわゆる「ファイアウォール」と呼ばれているものです。インターネットからの攻撃に対して社内への不正侵入などを防ぐセキュリティ機能です。最近ではファイアウォールでは防ぎきれないような外部からの攻撃をブロックする機能(IPS:不正侵入防止システム)を有しているものもあり、UTMのセキュリティ対策レベルは近年向上しています。

一方で、現在は内部から詐欺動画サイトや、フィッシングサイト、ウィルス感染しているサイトにアクセスしてしまい、遠隔操作プログラム等を仕込まれるケースも増えていることは、以前からお伝えしているとおりです。
このようなケースでは、ファイアウォールでは防ぐことができないため、上記1~3で説明したような統合的な防御が必要になってくるのです。

5)不正サイトに誘導されたとしてもブロックしてくれる

PCがのっとられてしまうような詐欺動画サイトや、不正送金サイトに誘導されたとしてもブロックする、レピュテーションによるセキュリティ機能があります。「レピュテーション」とは「風評・評判リスク」のことで、インターネット上にある、危険サイト、危険情報、評判が悪いサイト情報などをリアルタイムで収集し、自動的に最新状態に更新するため、クリックすると乗っ取られてしまうような詐欺動画サイトや、不正送金サイトに誘導されなくなる仕組みのことです。このような機能を備えたUTMも登場しています。

●製造業界

1.新製品の設計図情報が何者かに盗まれ、競合他社へ流出させてしまい、競合他社が商品を先行して出してしまった例。

2.取引先にウイルスに感染したメールを送付してしまい「次回同様のメールが送付された場合は取引を停止します」と警告を受けた例。

製造業界ではメーカーから1次下請け、2次下請けと多段階構造で仕事をやりとりしている場合が多く、メーカーから供給された図面情報や生産計画情報等、機密情報を中小企業の下請け部品メーカーが取り扱うケースが多いです。下請け部品メーカーではセキュリティ対策が十分に施されていない場合も多く、工場では機械を制御するパソコンがWindowsXPであったり、内部のネットワークにWindows XPパソコンが残っているのも特徴です。

メーカーから中小企業に十分なセキュリティ対策を施すよう指示が下りるがそもそもの方法がわからなかったり、金銭的な問題で対応していないケースも多く、メーカーと下請けのセキュリティ対策が乖離している現状も。下請け企業が受けた攻撃がメーカー側で発覚し、取引停止リスクにまで発展するケースも出てきています。「重大な機密情報を取り扱っている」ことを改めて認識することが重要です。また、内部からの持ち出しによる情報漏えいに加え、最近では外部からの攻撃による情報流出リスクが高まっています。具体的手口を知ることが、情報被害に遭わないための第一歩です。

《船井総合研究所 経営コンサルタント 那須 慎二 / 技術監修 ウォッチガード・テクノロジー・ジャパン》

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